心臓バクバクの正体――アドレナリンという小さな指令塔

心臓バクバクの正体――アドレナリンという小さな指令塔 健康・からだ

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心臓バクバクの正体――アドレナリンという小さな指令塔

心臓が早鐘のように鳴って、手のひらが湿って、口の中がからからになる。面接の順番を待つ廊下でも、結婚式のスピーチの直前でも、体は似たような反応をします。あれは気の弱さのせいではありません。腎臓の上にちょこんと乗った小さな臓器が、あなたを助けようとして出した指令だと考えられています。

スイッチは、腎臓の上にある

アドレナリンは副腎という臓器の、髄質と呼ばれる内側の部分から出るホルモンです。カテコールアミンという仲間に分類され、体の中ではチロシンというアミノ酸を出発点に、ドーパミン、ノルアドレナリンという順に姿を変えてつくられるとされています。ドーパミンもノルアドレナリンも、名前だけは聞いたことがある人が多いはず。あの三つは同じ製造ラインに並んだ兄弟のような関係なのです。

脳が危険や緊張を感じ取ると、交感神経を通じて副腎に指令が届きます。すると心臓の働きが強く速くなり、気道が広がって息が入りやすくなる。瞳孔が開き、肝臓にしまってあった糖が血液に押し出されて、筋肉がすぐ使える燃料が増える。手のひらの汗も、胃腸の動きが後回しになるのも、同じ号令の一部だと説明されています。体は勝手に、いつでも走り出せる姿勢をつくっているわけです。

ノルアドレナリンとの違いは、担当の重心が少しずれている、という言い方がしっくりきます。日本薬学会の用語解説では、アドレナリンは主に心臓の働きを高める作用を、ノルアドレナリンは血圧を上げる作用を強く発揮する、と対比されています。交感神経の末端から出るのは主にノルアドレナリン、副腎髄質から血液に流れ出るのが主にアドレナリン。その場で配られる伝令と、血流に乗って全身へ届く郵便。そのくらいの違いをイメージすると近いかもしれません。

この名前は、日本生まれ

へえ、と思ってもらえそうなのがここから。アドレナリンを世界で初めて結晶として取り出したのは、日本人の高峰譲吉と、助手を務めた上中啓三です。1900年、シカゴでウシの副腎から成分を単離することに成功し、アドレナリンと名づけました。ホルモンが目に見える物質として取り出されたのは、これが世界で最初だったと伝えられています。

その後、命名をめぐってアメリカの研究者との間に争いが起こり、アメリカと日本ではエピネフリンという別名が公式に使われる時期が長く続きました。日本で正式名がアドレナリンに戻ったのは2006年のこと。薬の名前ひとつに、100年越しの物語がしまいこまれています。

火事場の馬鹿力は、あるのか

正直に言うと、言い切れません。人は全力のつもりでも使われていない筋線維が残っている、という運動生理学の考え方は古くからあり、筋力の生理的な限界と心理的な限界のずれを扱った研究も日本で行われてきました。ただ、火事の現場で重い家具を持ち上げたという逸話そのものを実験で再現するのは難しく、諸説あるというのが実際のところです。アドレナリンが体を動きやすい状態へ寄せるのは確かでも、そこから怪力が生まれると断定できる段階ではありません。

緊張は、敵ではない

心拍が上がるのを「あがってしまった」と読むか、「準備が整った」と読むかで、その後の感じ方はずいぶん変わります。緊張がゼロの状態が最高の出来につながるとも限りません。ほどよい高まりは集中を助ける面がある。ただし高すぎれば手が震えて言葉が飛ぶので、落としどころを探すのが現実的です。

手近な方法は呼吸です。吸う時間より吐く時間を長めにとって、肩の力を抜いて数回くり返す。それで動悸が消えるわけではないけれど、体に「もう走らなくていい」と伝える手がかりにはなります。うまくいかない日もあるので、そこで自分を責めないでください。

ちなみにアドレナリンは薬としても使われています。日本アレルギー学会は、アナフィラキシーの治療で最優先されるのがアドレナリンだと示しています。使い方の詳細はここでは触れませんが、体を一気に立て直す力があるからこそ、救急の現場で頼られているのだと言えます。

思い当たる理由がないのに動悸や発汗、血圧の高さが続くときは、ホルモンを出す腫瘍など別の原因が隠れている場合もあります。自己判断で決めつけず、気になる症状があれば医師に相談してください。

参考・出典


この記事は、公開されている研究・公的情報をもとに、縁ノート編集部(理学療法士 監修)が作成しています。効果を保証するものではなく、体調の感じ方には個人差があります。気になる症状がある場合は、自己判断せず医療機関にご相談ください。

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