レチノールって結局何がすごいの?

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レチノールって結局何がすごいの?

最近、美容コーナーに行くとよく見かける言葉があります。

「レチノール」

シワ。毛穴。ハリ。エイジングケア。いろいろな商品に使われています。

SNSでは、

「絶対使った方がいい」

という人もいれば、

「皮むけして大変だった」

という人もいます。

そもそもレチノールとは何なのでしょう。なぜこれほど美容で注目されているのでしょうか。

結論から言うと、レチノールは「ビタミンAの仲間」です。そしてビタミンA系の外用成分、特にトレチノインについては、光老化した皮膚に対する研究が長年積み重ねられています。

ただし、

「レチノールを塗れば誰でも若返る」

という話ではありません。

まず、レチノールの正体から見てみましょう。

レチノールは「ビタミンAファミリー」

レチノールはビタミンAの一種です。美容では、

  • レチノール
  • レチナール
  • レチノイン酸

など、似た名前が出てきます。ややこしいですよね。

かなり単純化すると、皮膚では

レチノール → レチナール → レチノイン酸

という代謝経路があります。最終的に重要な働きをするのがレチノイン酸です。レチノイン酸は細胞内の受容体に結合して、遺伝子発現などに影響します。

つまり、皮膚の表面を物理的に削っているというより、細胞の働きそのものに影響を与えるタイプの成分なのです。

「ターンオーバーを早める」だけではない

レチノールについて、

「肌のターンオーバーを促進します」

という説明をよく見ます。間違いとまでは言えませんが、これだけではかなり単純化されています。

レチノイドは、

  • 表皮の細胞
  • 角化
  • 色素
  • 真皮の細胞外マトリックス

など、複数の仕組みに作用します。特に光老化との関係で重要なのが、コラーゲンです。

紫外線で壊されるコラーゲン

前回の記事では「光老化」を紹介しました。紫外線を浴びると皮膚ではさまざまな反応が起こり、MMPという細胞外マトリックスを分解する酵素群などが増えます。その結果、真皮のコラーゲン構造などが影響を受けます。

長年それが積み重なることで、

  • 細かいシワ
  • 肌の質感の変化
  • 弾力低下

などにつながります。

レチノイドが面白いのは、この経路に関係することです。トレチノインには、

  • コラーゲン産生に関係する反応を促す
  • 紫外線によって誘導される一部のMMPを抑える

などの作用が研究されています。つまり、「肌の表面をツルツルにする」だけではないのです。

そもそもレチノイドの美容効果は偶然見つかった?

実はレチノイドは、最初から「若返り化粧品」として研究されたわけではありません。トレチノインは、もともとニキビ治療などで使用されていました。

すると患者の皮膚を観察する中で、

  • 細かいシワ
  • 色素のむら
  • 皮膚表面の粗さ

などが改善することが分かってきました。

そこから、「もしかして光老化にも効くのでは?」と研究が進みます。1980年代には、光老化した皮膚に対するトレチノインの臨床研究が報告されました。美容成分としては、かなり長い研究の歴史があります。

本当にシワは改善する?

ここが一番知りたいところでしょう。

トレチノインについては複数のランダム化比較試験が行われています。2022年には、光老化に対する外用トレチノインのランダム化比較試験をまとめた系統的レビューが発表されました。5件のRCT、合計1,082人が対象です。

その結果、

  • 細かいシワ
  • まだらな色素沈着
  • 皮膚の黄ばみ

など、光老化による複数の所見で改善が確認されました。

つまり、「ビタミンA系を塗ると若返るらしい」という口コミだけではありません。少なくともトレチノインについては、臨床研究の蓄積があります。

ちょっと待って。レチノールとトレチノインは同じ?

ここが今日、一番覚えてほしいところです。

同じではありません。

トレチノインは、all-trans retinoic acid、つまりレチノイン酸そのもの。一方、化粧品によく使われるレチノールは、その前段階です。皮膚の中で代謝されてレチノイン酸になります。

この違いは重要です。トレチノインの研究結果をそのまま、

「市販のレチノール化粧品にも同じ効果があります」

と置き換えることはできません。製品によって、

  • 濃度
  • 安定性
  • 基剤
  • 浸透性
  • 使用方法

などが違うからです。

では、市販のレチノールには研究がない?

あります。

例えば2007年の研究では、平均年齢87歳の高齢者を対象に、0.4%レチノールローションを片腕に塗り、反対側に基剤のみを塗る比較が行われました。24週間後、細かいシワの改善が確認され、皮膚ではグリコサミノグリカンやプロコラーゲンIなどの増加も確認されました。

平均87歳。ここは結構驚きです。皮膚は高齢になっても、刺激に対して反応する能力を残している可能性があるということです。

じゃあ高濃度ほど効く?

ここで美容あるあるが始まります。

「0.1%より0.5%」「0.5%より1%」「もっと強いやつ!」

でも、薬理作用のある成分では、強い=良い、とは限りません。レチノイドには非常に有名な副作用があります。いわゆる、

レチノイド皮膚炎

です。赤み。乾燥。ヒリヒリ。皮むけ。かゆみ。特に使い始めに起こることがあります。

つまり、

効果を求めて濃度を上げすぎる → 刺激が強くなる → 肌荒れする → 続けられなくなる

では意味がありません。

「皮むけ=効いている」は危険

これもSNSでよく見る考え方です。

「皮がむけるくらい効いている!」

でも、刺激が出た=若返っている、ではありません。皮むけや赤みは、副作用として起きている可能性があります。強い炎症を我慢して続ければいいわけではありません。

美容は、痛いほど効く。赤いほど効く。剥けるほど効く。ではありません。

前に紹介した「強い顔マッサージ」と少し似ています。身体への刺激は、強ければ強いほど良い、とは限らないのです。

初めて使うならどうすればいい?

レチノールを使うなら、「最初から全力」にしないことです。

製品の説明に従うことが大前提ですが、一般的には、

  • 低い刺激から始める
  • 少ない頻度から始める
  • 肌の反応を見る
  • 保湿を併用する

という考え方が現実的です。

例えば、毎晩絶対使うではなく、肌の反応を見ながら間隔を調整する。赤みや刺激が強ければ休む。

「毎日続けること」より、「皮膚が耐えられる範囲で続けること」の方が重要です。

そして紫外線対策

ここでまた日焼け止めが登場します。

「また日焼け止め?」と思うかもしれません。でも、美容を科学すると何度もここへ戻ってきます。

そもそもレチノイドが研究されている大きな対象の一つが、光老化です。紫外線によって生じた変化を改善しようとしながら、新しい紫外線ダメージを大量に受け続ける。それでは効率が悪いですよね。

だからレチノールを使うなら、日中の紫外線対策もセットで考えた方が合理的です。

妊娠中は?

ここは重要なので美容の話とは分けて考えましょう。

経口レチノイドには胎児への重大なリスクがあることが知られています。外用レチノイドは経口薬とは吸収量が大きく異なりますが、安全側に立って妊娠中は使用を避けることが一般的に推奨されています。

妊娠中・妊娠を希望している場合は、自己判断せず医師などに相談してください。

レチノールは「毛穴」にも効く?

前回の記事で毛穴の話をしました。レチノイドは角化やニキビにも関係するため、毛穴詰まりへの治療としても重要な成分です。

ただし、「毛穴という穴そのものを永久に縮める薬」ではありません。皮膚のターンオーバーや角化、皮膚構造などに作用することで、結果として毛穴が目立ちにくくなる可能性がある、と考えた方が適切です。

何日で効く?

これも重要です。

美容広告では、「翌朝から!」という表現に惹かれます。しかしレチノイドによる皮膚構造の変化は、一晩で起こる魔法ではありません。

研究では、数週間。数か月。という単位で評価されています。先ほど紹介したレチノール研究も24週間です。約半年。

つまり、今夜塗る → 明日の朝10歳若返る、というものではありません。皮膚はゆっくり変化します。

美容成分を見るときに覚えておきたいこと

レチノールの話から、もう一つ大切なことが見えてきます。

美容成分を評価するとき、「その成分の名前」だけでは足りません。例えば、

「レチノールが入っています。」

だけでは、

  • どれくらい入っているのか。
  • 安定しているのか。
  • どんな製剤なのか。
  • どのくらいの期間使ったのか。
  • 誰を対象にした研究なのか。

分かりません。

そして、トレチノインの研究を、レチノール商品の広告にそのまま当てはめることもできません。同じ「ビタミンA系」でも、エビデンスの強さは同じではないのです。

結局、レチノールは使った方がいい?

ここまで読んで、「じゃあ使うべき?」と思うでしょう。

答えは、「目的と肌に合えば、有力な選択肢の一つ」です。

美容成分の中では、レチノイドというカテゴリー自体には比較的長い研究の歴史があります。そして市販レチノールにも、人を対象にした研究があります。だから、「なんとなく流行っている成分」とは少し違います。

一方で、全員に必要でもありません。刺激が強い人もいます。乾燥肌や敏感肌では慎重に使う必要があります。そして、レチノールだけ塗れば美容は完成、でもありません。

高い美容液より「順番」

ここまでの美容シリーズを振り返ると、面白い共通点があります。

  • 顔を強く揉む。 → 根拠は限定的。
  • コラーゲンを飲む。 → 可能性はあるが、まだ不確実性がある。
  • 高級化粧水。 → 価格=効果ではない。
  • レチノール。 → 比較的研究はある。ただし刺激もある。

そして何度も登場するのが、紫外線対策。

美容では、「何を買うか」より、「何を優先するか」が大切なのかもしれません。

派手ではない美容ほど、時間がかかる

レチノールを塗っても、翌朝突然シワが消えるわけではありません。日焼け止めを塗っても、今日の顔が5歳若返るわけではありません。保湿しても、骨格が変わるわけではありません。

だからSNSでは、「片側だけ30秒マッサージしたらこんなに上がった!」という美容法の方が魅力的に見えます。

でも科学的に皮膚を考えると、本当に意味のある変化ほど、静かで、地味で、時間がかかるものが多い。

肌は魔法では変わりません。でも、正しい刺激には、少しずつ応えてくれます。

レチノールの本当のすごさは、「一晩で若返ること」ではなく、皮膚という生きた組織が、いくつになっても変化する可能性を持っていること、なのかもしれません。

 

美容の”常識のウソ”を科学で検証したまとめはこちら → 美容の常識を科学で検証【まとめ】

 

主な参考文献

  • Kafi R, et al. Improvement of naturally aged skin with vitamin A (retinol). Arch Dermatol. 2007;143:606-612.
    平均年齢約87歳の高齢者を対象に0.4%レチノールを24週間使用。細かいシワの改善やプロコラーゲンIなどの増加が報告されたランダム化比較試験です。(PubMed)
  • Sitohang IBS, et al. Topical tretinoin for treating photoaging: A systematic review of randomized controlled trials. Int J Womens Dermatol. 2022.
    5件のRCT、計1,082人を対象に、光老化に対する外用トレチノインの効果を検討した系統的レビューです。細かいシワや色素沈着などの改善が報告されています。(PubMed)
  • Mukherjee S, et al. Retinoids in the treatment of skin aging: an overview of clinical efficacy and safety. Clin Interv Aging. 2006.
    レチノイドの種類、作用機序、光老化に対する臨床研究、副作用などをまとめたレビューです。(PubMed)
  • Fisher GJ, et al. Molecular mechanisms of photoaging and its prevention by retinoic acid: ultraviolet irradiation induces MAP kinase signal transduction pathways that induce AP-1-regulated matrix metalloproteinases that degrade human skin in vivo. J Investig Dermatol Symp Proc. 1998.
    紫外線、MMP、コラーゲン分解とレチノイン酸の関係を検討した代表的研究です。(PubMed)
  • Kang S, et al. Application of retinol to human skin in vivo induces epidermal hyperplasia and enhanced collagen synthesis. J Invest Dermatol. 1995.
    ヒト皮膚へのレチノール外用によって表皮やコラーゲン合成に生物学的変化が起こることを示した研究です。(PubMed)
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