📂 美容
ほうれい線は「シワ」じゃない? 顔にできる“影”の正体
鏡を見たとき、
「ほうれい線、濃くなったな……」
と思ったことはありませんか?
すると、
- 保湿しなきゃ。
- 美容液を塗ろう。
- マッサージで伸ばそう。
そんな対策を考えるかもしれません。
でも、ここで最初に知っておきたいことがあります。
ほうれい線は、単純な「皮膚のシワ」ではありません。
実は、顔の表面だけを見ていても、その正体はなかなか分からないのです。
そもそも、ほうれい線とは?
ほうれい線は、鼻の横から口角付近に向かって伸びる境界です。
医学・解剖学では nasolabial fold などと呼ばれます。
ここで重要なのが「fold」という言葉。
日本語にすると「ひだ」「折れ目」に近い意味です。
例えば、目尻にできる細かいシワを想像してください。
皮膚そのものに細い線が刻まれています。
一方、ほうれい線では少し事情が違います。
頬側には厚みのある軟部組織があり、口元側とは組織の構造が異なります。
さらに、この境界付近には表情筋や線維性の構造などが複雑に関係しています。
つまり、
「皮膚に一本の線が刻まれている」
というより、
「立体的な顔の構造によって境界と影ができている」
と考えた方が実態に近いのです。
解剖研究でも、ほうれい線周辺には筋肉や線維性隔壁、脂肪など複数の組織が関係していることが示されています。
顔の脂肪は、一枚のクッションではない
ここでもう一つ面白いことがあります。
顔の脂肪というと、
皮膚の下に脂肪が一枚の布団のように敷かれている
と想像するかもしれません。
実際には違います。
顔の脂肪は、いくつもの「脂肪区画」に分かれています。
2007年の解剖研究では、顔の皮下脂肪が複数の独立したコンパートメントに分かれていることが示されました。
そして、ほうれい線周辺にも独立した脂肪区画があります。
つまり顔は、
- 皮膚
- 脂肪
- 筋肉
- 筋膜
- 支持組織
- 骨
などが何層にも重なった立体構造なのです。
年を取ると「皮膚だけ」が老化するわけではない
では、なぜ年齢とともにほうれい線が目立つのでしょうか。
「肌のハリがなくなるから」
もちろん、それも一つです。
しかし、それだけではありません。
現在の顔面老化の研究では、
- 皮膚
- 脂肪
- 支持組織
- 筋肉
- 骨格
など複数の組織が、それぞれ異なる形で変化すると考えられています。
特に中顔面では、深い位置にある脂肪区画のボリューム変化や位置関係の変化が、頬の形に影響します。
その結果、頬と口元との高低差が強調されることがあります。
高低差ができれば、当然そこには影ができます。
これが、
「ほうれい線が深くなった」
と感じる理由の一つです。
実は「骨」も関係している
さらに意外なのが骨です。
顔の骨格は成人したら一生同じ形、と思われがちですが、そうではありません。
加齢に伴って顔面骨にもリモデリングが起こります。
特に中顔面では上顎骨などの形態変化が報告されており、これによって軟部組織を支える土台も変化します。
中顔面の加齢をまとめたレビューでも、上顎骨や梨状口周辺などの骨格変化が報告されています。
つまり、
皮膚だけを一生懸命引っ張っていても、
その下にある「土台」自体が変化している場合があるのです。
「影」と考えると分かりやすい
ここまでを、とても簡単に考えてみましょう。
柔らかい布の下に、
厚いクッションと
薄いクッションを並べたとします。
その境界には段差ができます。
上から光を当てれば、そこに影ができます。
顔でも似たことが起こります。
- 頬側のボリューム。
- 口元側のボリューム。
- 脂肪区画の変化。
- 骨格の変化。
- 支持組織。
- 皮膚。
これらによって立体的な段差が生まれます。
だから、ほうれい線の見え方は照明によってもかなり変わります。
正面から柔らかい光を当てると薄く見えるのに、上や横から強い光を当てると急に深く見える。
皮膚に刻まれた線だけが原因なら、ここまで影の影響は受けません。
「線」というより「地形」。
そう考えると、ほうれい線の正体が少し分かりやすくなります。
だから「伸ばせば消える」とは限らない
ここで前回の顔マッサージの話にもつながります。
ほうれい線を見つけると、
指で外側へグーッと引っ張りたくなります。
確かに引っ張っている間は消えます。
しかし、それは顔の構造そのものを若返らせたわけではありません。
皮膚と軟部組織を一時的に移動させただけです。
ほうれい線の背景に、
- 脂肪区画
- 深部組織
- 支持構造
- 骨格
- 皮膚
など複数の要因がある以上、
「毎日この線を伸ばせば消える」
というほど単純ではありません。
「頬の筋肉が落ちたから」だけでもない
もう一つよく聞くのが、
「表情筋が衰えて頬が下がったから、ほうれい線ができる」
という説明です。
これも一部だけを切り取った説明です。
顔面老化は非常に複雑で、筋肉だけで説明できません。
実際、ほうれい線そのものの位置は加齢でも比較的保たれ、周囲の脂肪や骨格、軟部組織の変化によって深さが強調されるという解剖学的な考え方もあります。
つまり、
「頬の筋肉を鍛えれば全部持ち上がる」
とは限らないのです。
この「顔の筋トレ」は、次の記事で詳しく検証します。
では、どうすればいい?
ここで大切なのは、
「ほうれい線を完全に消す方法」
を探すことではありません。
まず、変えられるものと変えにくいものを分けます。
骨格や生まれつきの脂肪区画などは、セルフケアで簡単に変えられるものではありません。
一方、皮膚の老化には予防できる部分があります。
特に重要なのが紫外線です。
紫外線による光老化は、皮膚のコラーゲンなどに影響します。
前回の記事でも紹介したように、日焼け止めを毎日使用した群で皮膚老化の進行が少なかったランダム化比較試験もあります。
だから長期的に考えるなら、
高価な「ほうれい線マッサージ」を続けることより、
- 毎日の紫外線対策
- 適切な保湿
- 喫煙を避ける
- 十分な睡眠や栄養など基本的な生活習慣
こうした地味なことの方が、少なくとも皮膚の健康という意味では理にかなっています。
ほうれい線がある=老けた顔、ではない
そして最後に、一つだけ。
ほうれい線は病気ではありません。
若い人にもあります。
笑えば、さらに目立ちます。
そもそも表情を作る顔には、構造上存在して当然の境界でもあります。
ほうれい線を完全になくすことを目標にすると、
「笑うと線ができる」
ことまで悪いものに思えてしまいます。
でも、それは少し違います。
私たちの顔は、
皮膚一枚でできているのではありません。
骨があり、
脂肪があり、
筋肉があり、
それらを支える組織があり、
その上に皮膚があります。
そして全部が一緒に歳を重ねます。
だから鏡の中に一本の線を見つけたとき、
「このシワを消さなきゃ」
ではなく、
「顔という立体構造が作っている影なんだ」
と思い出してみてください。
ほうれい線を見る目が、少しだけ変わるかもしれません。
美容の”常識のウソ”を科学で検証したまとめはこちら → 美容の常識を科学で検証【まとめ】
主な参考文献
- Rohrich RJ, Pessa JE. The Fat Compartments of the Face: Anatomy and Clinical Implications for Cosmetic Surgery. Plast Reconstr Surg. 2007.
顔面脂肪が複数の独立した区画から構成されることを示した解剖研究。(PubMed) - Wan D, Amirlak B, Rohrich R, Davis K. The Clinical Importance of the Fat Compartments in Midfacial Aging. Plast Reconstr Surg Glob Open. 2013.
中顔面の脂肪区画と加齢変化についてのレビュー。(PubMed Central (PMC)) - Cotofana S, et al. The Anatomy of the Aging Face: A Review. Facial Plast Surg. 2016.
皮膚、脂肪、筋肉、靱帯、骨などを含めた顔面老化の解剖学的レビュー。(PubMed) - Pessa JE, et al. The Surgical Anatomy of the Nasolabial Fold. Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol Endod. 1998.
ほうれい線周囲の筋肉、脂肪、線維性構造を調べた解剖研究。(PubMed) - Hong GW, et al. Why Do Nasolabial Folds Appear? Exploring the Anatomical Perspectives and the Role of Thread-Based Interventions. Diagnostics. 2024.
ほうれい線形成に関係する解剖学的要因をまとめたレビュー。(PubMed Central (PMC)) - Lee EI, et al. A Review of Midface Aging. Ophthalmic Plast Reconstr Surg. 2023.
中顔面における骨格や脂肪区画などの加齢変化についてのレビュー。(PubMed)


