📂 美容
肌は「年齢」より「紫外線」で老ける?
同じ70歳なのに、手の甲にはシミやシワが多い。でも、お腹や太ももの内側は意外なほどきれい。そんな違いを見たことはありませんか?
同じ人。同じ年齢。同じ遺伝子。それなのに、皮膚の老け方が違います。
この違いを生み出す大きな要因の一つが、「紫外線」です。私たちの肌には、年齢によって進む老化と、太陽によって進む老化があります。後者にはちゃんと名前があります。「光老化」です。
そして美容を考えるうえで、この光老化を知っているかどうかはかなり重要です。
肌には「2種類の老化」がある
皮膚の老化は、大きく分けると、
- 内因性老化
- 外因性老化
という考え方ができます。
内因性老化は、時間とともに自然に起こる変化。誰にも止められません。
一方、外因性老化には、
- 紫外線
- 喫煙
- 大気汚染など
外部環境による影響が含まれます。その中でも、特に研究されてきたのが紫外線です。
長期間にわたって紫外線を受けた皮膚には、
- シワ
- 色素斑
- 肌の質感の変化
- 弾力性の低下
などが現れます。これが光老化です。(PubMed)
「年を取ったからシワができた」だけではない
ここで一つ面白いことがあります。もし皮膚の老化が100%「年齢」で決まるなら、同じ人の皮膚は、どこでも同じくらい老化するはずです。
でも実際には違います。
- 顔
- 首
- 手の甲
- 腕
こうした日光にさらされやすい場所では、光老化の影響が加わります。一方、普段衣服に隠れている場所では、その影響が比較的小さい。
だから同じ人の身体の中でも、「太陽を浴びてきた皮膚」と「あまり太陽を浴びていない皮膚」で、見た目に大きな差が生まれることがあります。
つまり私たちが「年齢のせい」と思っている肌変化の中には、年齢そのものだけでなく、これまで浴びてきた紫外線の履歴が含まれているのです。
紫外線は皮膚の中で何をしている?
では紫外線を浴びると、なぜ肌が老化するのでしょう。ここから少しだけ皮膚の中に入ってみます。
皮膚の真皮には、
- コラーゲン
- エラスチン
など、皮膚の構造や力学的性質に関係する細胞外マトリックスがあります。
紫外線を受けると、皮膚ではさまざまなシグナル伝達が起こります。その一つとして研究されているのが、MMP(マトリックスメタロプロテアーゼ)です。簡単に言えば、細胞外マトリックスを分解する酵素のグループです。
紫外線によって一部のMMPの発現が増加し、コラーゲンなどの分解に関与することが分かっています。(PubMed)
コラーゲンは「作る」だけではダメ
前回の記事で、「コラーゲンを飲むと肌はきれいになる?」という話をしました。
でも皮膚のコラーゲンを考えるときには、
- 作る
だけではなく、
- 壊される
という方向も考えなければいけません。
皮膚では常に、
作る → 壊す → 作り直す
というリモデリングが起きています。ところが紫外線への慢性的な曝露によって、このバランスが乱れます。コラーゲン線維が断片化し、正常な細胞外マトリックスの構造が崩れていく。これが光老化の重要なメカニズムの一つと考えられています。(PubMed)
だから美容を、「何を足せばいい?」だけで考えると、半分しか見えていません。新しいコラーゲンを作ることを考える前に、今ある皮膚をなるべく傷めないという発想も必要なのです。
「肌老化の80%は紫外線」って本当?
美容の記事で、とてもよく見る数字があります。「肌老化の80%は紫外線」。かなりインパクトがあります。
実は、この数字には元になった研究があります。2013年、298人の白人女性を対象に、紫外線曝露と顔の老化徴候との関係を調べた研究が発表されました。
研究では、
- シワ・肌理
- 色素異常
- たるみ
- 血管系の変化
など22項目を評価しました。その結果、紫外線曝露と複数の顔面老化徴候との関連が認められ、著者らは「UV曝露は目に見える顔面老化徴候の約80%に関与する」と推定しました。(PubMed)
ただし、ここは慎重に読む必要があります。これは、「人間の老化の80%が紫外線」という意味ではありません。また、「あなたのシワの80%が紫外線によってできた」と個人にそのまま当てはめられる数字でもありません。特定の集団を対象に、顔の老化徴候と紫外線曝露の関係を統計的に評価した研究です。
ですから、「80%」という数字だけを切り取るより、「紫外線は顔の見た目の老化にかなり大きく関係している」と理解する方が適切です。
双子を比べても、太陽の影響が見えてくる
さらに面白い研究があります。一卵性双生児です。一卵性双生児は遺伝的背景が非常によく似ています。そこで、「なぜ同じような遺伝子を持っているのに、片方が老けて見えるのか?」を調べました。
2009年に発表された研究では、一卵性双生児の写真と生活習慣を分析しました。その結果、
- 長期間の喫煙
- 紫外線曝露
- 屋外活動
- 日焼け止めを使用しないこと
などが、より老けて見えることと関連していました。(PubMed)
遺伝子がほぼ同じでも、どう暮らしてきたかによって顔の見え方には差が生まれる。美容というと遺伝の影響ばかり考えてしまいますが、環境もかなり重要なのです。
では、日焼け止めで本当に老化を防げる?
ここが一番重要です。「紫外線が肌を老化させる」だけなら、まだ観察研究の話です。知りたいのは、「実際に紫外線対策をしたら、老化を遅らせられるの?」ですよね。
これを調べた非常に面白い研究があります。オーストラリアで行われたランダム化比較試験です。903人の成人を対象に、
- 日焼け止めを毎日使用する群
- 自分の判断で使用する群
などに分けました。そして約4年半追跡しました。
結果はどうなったでしょう。毎日日焼け止めを使用した群では、皮膚老化の進行が少なかったのです。研究では、毎日使用群の皮膚老化は任意使用群より24%少ないという結果でした。(PubMed)
美容の世界では、
- 高価な美容液
- 特殊なマッサージ
- 美容器具
- サプリメント
さまざまな方法があります。でも、「毎日日焼け止めを使った人を4年以上追跡したランダム化比較試験」というのは、かなり強いデータです。
日焼けしなければ紫外線ダメージはない?
ここも勘違いしやすいところです。「今日は日焼けしていないから大丈夫」とは限りません。
紫外線には、
- UVA
- UVB
などがあります。UVBは日焼けやDNA損傷などに強く関係します。一方、UVAはUVBより皮膚の深部まで届きやすく、光老化にも関与します。
しかも皮膚への紫外線ダメージは、一度の強烈な日焼けだけで考えるものではありません。日常的な曝露が積み重なります。(PubMed)
真夏の海だけ日焼け止めを塗る。ではなく、日常の紫外線をどう減らすかという発想が重要になります。
曇りの日は?
「今日は曇っているからいらない」。これも注意が必要です。
地表に届く紫外線量は、
- 季節
- 時間帯
- 緯度
- 雲
- 高度
- 地面からの反射
などによって変わります。曇っていれば紫外線が完全にゼロになるわけではありません。
ただし、「365日、どんな状況でも全く同じ量の日焼け止めが必要」という意味でもありません。美容は恐怖で続けるものではありません。その日の活動、季節、紫外線の強さ、屋外にいる時間などに合わせて現実的に対策すればいいのです。
SPFが高ければ高いほどいい?
ここも数字だけで選びがちです。SPFは主にUVBによる紅斑を防ぐ能力の指標です。一方、UVAへの防御も重要です。日本では、PAという表示があります。
ですから光老化を考えるなら、SPFだけを見て終わりではなく、UVAも含めた広い範囲を防御できる製品を選ぶことが大切です。
そして何より、「ものすごく高性能だけど、ベタベタして嫌だから使わない」より、「自分が毎日無理なく使える」ことの方が現実には重要です。
日焼け止めだけが紫外線対策ではない
紫外線対策というと、日焼け止めを塗るしか思いつかないかもしれません。でも方法は他にもあります。
- 帽子
- 日傘
- サングラス
- 衣服
- 日陰
- 強い時間帯の長時間曝露を避ける
これらも立派な紫外線対策です。むしろ、日焼け止めだけですべて防ぐと考える必要はありません。物理的に遮る方法と組み合わせる方が合理的です。
「太陽は悪」ではない
ここで極端にならないようにしましょう。この記事を読んで、「太陽に当たったら老ける!」と怖がる必要はありません。
日光は私たちの生活に必要です。
- 昼夜のリズム
- 屋外活動
- 運動
そして皮膚ではUVBによってビタミンDが生成されます。
大切なのは、太陽を敵にすることではなく、過剰な紫外線曝露を減らすこと。美容のために一日中家から出ない。それでは健康というもっと大きな目的を見失ってしまいます。
高級美容液より先に考えたいこと
もし、「将来なるべく肌を若々しく保つため、一つだけ何か始めるなら?」と聞かれたら、候補のかなり上位に来るのが紫外線対策です。
なぜなら、
- 理屈がある
- 観察研究がある
- 組織学的な研究がある
- 分子レベルの研究がある
- そして人を対象にしたランダム化比較試験まである
からです。(PubMed)
しかも、何万円もする美容機器を買う必要はありません。
美容は「若返らせる」より「老化を遅らせる」
美容では、シワを消す。たるみを上げる。若返る。という言葉が目立ちます。
でも身体は時間を巻き戻せません。一方で、これから受けるダメージを減らすことはできます。紫外線対策は、その代表です。
今日塗った日焼け止めを見ても、鏡の中の顔はほとんど変わりません。だから面白くない。マッサージのように、「右だけやったらこんなに上がりました!」という劇的な写真も撮れません。
でも4年。10年。20年。という時間で考えたとき、意味が出てくる美容があります。
10年後の自分には、今日からしか届けられない
シワができてから、高い美容液を探す。シミが増えてから、消す方法を探す。もちろん、それも選択肢です。
でももう一つ、「なるべく作らない」という美容があります。派手ではありません。今日やっても誰にも気づかれません。でも研究を見ていくと、その地味な方法にかなり強い根拠があります。
- 日焼け止め
- 帽子
- 日陰
たったそれだけです。
美容とは、今の自分をきれいに見せることだけではなく、未来の自分の皮膚を守ることなのかもしれません。
今日の紫外線対策は、10年後の自分には今日しかできない美容です。
美容の”常識のウソ”を科学で検証したまとめはこちら → 美容の常識を科学で検証【まとめ】
主な参考文献
- Hughes MCB, Williams GM, Baker P, Green AC. Sunscreen and prevention of skin aging: a randomized trial. Ann Intern Med. 2013;158:781-790.
903人を対象に約4.5年間追跡したランダム化比較試験。毎日日焼け止めを使用した群では、任意使用群より皮膚老化の進行が少なかったことが報告されています。(PubMed) - Flament F, et al. Effect of the sun on visible clinical signs of aging in Caucasian skin. Clin Cosmet Investig Dermatol. 2013.
298人の女性を対象に紫外線曝露と顔面老化徴候を評価。「UV曝露が目に見える顔面老化徴候の約80%に関与する」という有名な推定の元となった研究です。ただし、個人の老化の80%を意味する数字ではありません。(PubMed) - Rexbye H, et al. Influence of environmental factors on facial ageing. Age Ageing. 2006.
双生児を含むデータから、日光曝露や喫煙などと顔の見た目の老化との関連を検討した研究です。(PubMed) - Guyuron B, et al. Factors contributing to the facial aging of identical twins. Plast Reconstr Surg. 2009.
一卵性双生児を対象に、紫外線曝露、日焼け止め使用、喫煙などと見た目年齢の違いを検討した研究です。(PubMed) - Fisher GJ, et al. Molecular mechanisms of photoaging and its prevention by retinoic acid. Photochem Photobiol. 1999.
紫外線によるMMP誘導やコラーゲン分解など、光老化の分子機構を検討した研究です。(PubMed) - Quan T, et al. Matrix-degrading metalloproteinases in photoaging. J Investig Dermatol Symp Proc. 2009.
紫外線によって誘導されるMMPと、真皮結合組織・コラーゲンの変化についてまとめたレビューです。(PubMed)


