期待こそが快楽だった――ドーパミンの正体を探る

期待こそが快楽だった――ドーパミンの正体を探る 健康・からだ

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期待こそが快楽だった――ドーパミンの正体を探る

くじを引くとき、いちばん気持ちが盛り上がるのはいつでしょうか。当たりを見た瞬間ではなく、封を開ける直前のあの数秒だ、という人は多いはずです。脳のなかでも、それに近いことが起きているらしいと考えられています。

ドーパミンは快楽物質と呼ばれがちですが、研究者の見方は少し違います。心地よさそのものより、これから良いことがありそうだという予測や期待のほうに強く反応する。ここがこの物質のいちばん面白いところです。

もらう前から、脳は動き出している

ドーパミンをつくる神経細胞の活動を調べた研究では、学習の初期には報酬を受け取った瞬間に活動が高まります。ところが同じことを繰り返すうち、活動のタイミングが前へずれていく。報酬そのものではなく、報酬を知らせる合図が出た時点で反応するようになるのです。

脳科学辞典では、実際に得られた報酬と予測していた報酬の差を「報酬予測誤差」と呼び、これが学習の信号になると説明されています。予測より良ければ活動が増え、予測を下回れば減る。ドーパミン神経がこの誤差を表しているという考え方は、ドーパミン報酬予測誤差仮説と呼ばれています。

つまりドーパミンは、うれしさの量ではなく「思っていたより良かったかどうか」を伝える係に近い。毎日同じ時間に同じおやつが出てくると心が動かなくなるのも、予測どおりで誤差がゼロに近づくからだと説明できます。

期待が外れたあとにも、はたらいている

興味深い報告があります。生理学研究所と京都大学のグループは2023年、期待した報酬が得られなかった直後に、むしろ活動を高めるドーパミン細胞が中脳におよそ半数あることをラットで見いだしたと発表しました。がっかりした瞬間に落ちるだけでなく、そこから立て直して行動を続けることを支えている可能性があるとされています。

粘り強さは性格の問題だと思われがちですが、そこにも脳の仕組みが関わっているのかもしれません。そう考えると、うまくいかなかった日の自分を少しだけ許せる気がします。

スマホが強いのは「何が来るか分からない」から

予測誤差の話を踏まえると、通知やSNSを手放しにくい理由が見えてきます。開いてみるまで、面白い投稿が来ているのか、どうでもいい広告なのか分からない。この分からなさこそが、予測を毎回裏切り続ける構造です。中身が毎回同じなら人はすぐ飽きます。当たり外れがあるから、指が止まらない。

ゲームやネットの使用が生活に支障をきたす状態は、WHOの国際疾病分類でゲーム行動症として位置づけられました。日本精神神経学会の解説では、次のような点が挙げられています。

  • ゲームをコントロールできない
  • 生活のなかで優先度が極端に高い
  • 学業や仕事や家庭に明らかな問題が起きている
  • それでも続けたりエスカレートさせたりする

気になることがあれば、各都道府県や政令指定都市の精神保健福祉センターに依存の相談窓口があります。受診が早すぎることはない、とも述べられています。意志が弱いという話ではなく、相談していい話です。

やる気だけでなく、体の動き出しにも

ドーパミンの役割は気分だけにとどまりません。生理学研究所の研究では、大脳基底核でドーパミンD1受容体を介した伝達が失われると運動量が減り、動きが起こりにくくなることが示されています。パーキンソン病でみられる無動の仕組みに関わると考えられている、という位置づけです。ここは自分で判定する話ではないので、気になる症状があるときは自己判断せず医療機関に相談してください。

やる気が出ないから動けない、と私たちは考えがちですが、動き出しと意欲は同じ土台を共有しているようです。とりあえず始めてしまうと案外続く、という体験も、この辺と無関係ではなさそうです。

つきあい方は、根性より設計で

ここ数年よく聞くドーパミンデトックスは、公的機関や学会が推奨する確立した方法ではありません。ドーパミンは生きるうえで欠かせない物質で、抜いたり空にしたりできるものでもない。刺激から距離を置くこと自体に意味がある場面はあるものの、名前の印象ほどの科学的裏づけがそろっているとは言えない、というのが正直なところです。

現実的なのは、予測が裏切られにくい環境をつくること。通知を切れば「何か来たかも」という不確実さが減ります。スマホを別の部屋に置くのも同じ理屈です。逆に、進めたい作業のほうには小さな達成を置いてみる。一気に片づけようとせず、五分だけ手をつけて印を残す、くらいで十分。予測より少しだけ良い結果を、自分の手で用意してあげる感覚に近いのかもしれません。

参考・出典

この記事は、公開されている研究・公的情報をもとに、縁ノート編集部(理学療法士 監修)が作成しています。効果を保証するものではなく、体調の感じ方には個人差があります。気になる症状がある場合は、自己判断せず医療機関にご相談ください。

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