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頭皮を揉めば顔は上がるのか?―「つながっている」の科学的な誤解
- 「頭皮と顔はつながっているから、ほぐせば上がる」は本当か
- そもそも「頭皮と顔はつながっている」は本当?
- 「つながっている」=「頭皮を揉めば顔が上がる」ではない
- 顔は「皮一枚が上からぶら下がっている」わけではない
- では、なぜ顔はたるむの?
- それなら、マッサージ直後に顔が上がるのはなぜ?
- 写真は意外と簡単に変わる
- 頭皮マッサージそのものの研究はある?
- リラックス効果については?
- 「頭皮が硬い」って何?
- 強く揉めば柔らかくなる?
- 顔を本当に支えているものを考える
- では、たるみ予防として何をすればいい?
- 頭皮マッサージはやめた方がいい?
- 「気持ちいい」と「若返る」を分ける
- 美容の「それっぽい説明」に気をつける
- 頭皮は、顔を引き上げるハンドルではない
- 主な参考文献
「頭皮と顔はつながっているから、ほぐせば上がる」は本当か
「顔のたるみは、頭皮のコリが原因です」
「頭皮をほぐすと、フェイスラインが上がります」
「頭皮と顔は一枚の皮でつながっているので、頭皮から引き上げましょう」
美容系の動画で、よく見かける言葉です。
実際に、
右側だけ頭皮マッサージ
↓
鏡を見る
↓
「ほら!右だけ上がった!」
という動画もあります。
確かに、人間の頭皮と顔は別々の部品ではありません。解剖学的にも連続しています。
では、頭皮を揉めば、本当に顔のたるみを持ち上げることができるのでしょうか。
結論から言うと、
「頭皮マッサージによって顔のたるみが長期的にリフトアップする、という十分な臨床的エビデンスは現時点ではありません」
です。
ただし、頭皮マッサージそのものが全部無意味という話でもありません。ここを解剖学から見ていくと、かなり面白い美容の話になります。
そもそも「頭皮と顔はつながっている」は本当?
これは本当です。
顔の皮下には、SMAS(Superficial Musculo-Aponeurotic System)と呼ばれる筋膜性の組織があります。日本語では「表在性筋腱膜系」などと呼ばれます。顔の表情筋や皮下組織と関係する重要な構造です。
このSMASは上方では側頭部の筋膜などと連続し、下方では広頸筋へとつながっていきます。
つまり、頭・顔・首は、解剖学的に完全に独立した部品ではありません。
ここまでは、「頭皮と顔はつながっている」という美容情報は間違っていません。問題は、その次です。
「つながっている」=「頭皮を揉めば顔が上がる」ではない
ここで少し考えてみましょう。
シャツの袖と胴体はつながっています。では、袖を揉んだら襟元が持ち上がるでしょうか。
つながっていることと、一方を揉むことで、もう一方の位置が長期間変化することは別の話です。
顔も同じです。顔の軟部組織は、
- 皮膚
- 皮下脂肪
- SMAS・表情筋
- 深部脂肪
- 骨膜・深筋膜
など、複数の層から構成されています。
さらに、それらを支える重要な構造があります。「retaining ligaments」、顔面支持靱帯です。
顔は「皮一枚が上からぶら下がっている」わけではない
顔の構造を、頭から一枚の皮が垂れ下がっているように想像すると、「頭皮を上に引っ張れば顔も上がる」という説明はとても納得できます。
でも実際の顔はもっと複雑です。
顔には、
- 頬骨周辺
- 咬筋周辺
- 下顎周辺
などに支持靱帯が存在します。これらは深部の組織とSMASや皮膚側の組織を結び、顔の軟部組織を一定の位置に保持する役割を担っています。
つまり顔は、頭頂部から吊るされた一枚のカーテンではありません。いくつもの場所で固定された、立体的な構造物なのです。
では、なぜ顔はたるむの?
「頭皮が硬くなったから」だけでは説明できません。
顔の老化には、
- 皮膚の変化
- コラーゲンやエラスチンなどの細胞外マトリックスの変化
- 皮下脂肪の量や位置の変化
- 支持靱帯の変化
- 筋肉の変化
- 骨格の加齢変化
- 紫外線
など、さまざまな要素が関係します。
特に近年の顔面解剖では、顔の脂肪は一枚の均一な脂肪ではなく、複数のコンパートメントに分かれているという考え方が重要になっています。さらに骨格そのものも年齢とともに変化します。
つまり、「顔が下がってきた」という現象は、頭皮という一か所だけで説明できるほど単純ではないのです。
それなら、マッサージ直後に顔が上がるのはなぜ?
ここが一番面白いところです。
実際、マッサージ後に「顔がスッキリした」「目が開いた」「フェイスラインが出た」と感じる人はいます。それ自体を否定する必要はありません。
考えられるのは、
- 皮膚や皮下組織への機械的刺激
- 血流の変化
- 一時的な組織液の移動
- 筋緊張や感覚の変化
- 表情の変化
などです。
そしてもう一つ、単純に皮膚を物理的に引っ張れば、その瞬間は顔も動きます。
試しに、こめかみ付近の皮膚を指で上方向に少し動かしてみてください。目尻や頬の見え方も変わると思います。当然です。組織が連続しているからです。
でも、「動く」ことと、「その位置に固定される」ことは違います。手を離せば、多くの場合戻ります。
ここをビフォーアフター写真だけで、「たるみが改善した」と判断するのは注意が必要です。
写真は意外と簡単に変わる
美容のビフォーアフターを見るときには、もう一つ覚えておきたいことがあります。
顔の見え方は、
- カメラの高さ
- 顔の角度
- 顎の位置
- 照明
- 表情
- 髪型
- 撮影距離
によって大きく変わります。特にフェイスラインは、顎を数度動かすだけでもかなり違って見えます。
だから、「右だけ30秒マッサージしました」という一枚の写真だけでは、顔の構造が本当に変化したのかまでは分かりません。
本当にリフトアップ効果を証明するなら、撮影条件を統一し、対照群を設け、客観的な計測を行い、さらに効果がどれくらい持続するのかまで調べる必要があります。
頭皮マッサージそのものの研究はある?
あります。ただし、「顔が上がるか」ではなく、別の目的で研究されているものが中心です。
例えば2016年、日本の研究者らは9人の男性を対象に、1日4分間の標準化された頭皮マッサージを24週間行いました。その結果、毛髪の太さが増加したことが報告されています。研究者らは、マッサージによる機械的な伸張刺激が毛乳頭細胞などに影響した可能性を検討しています。
ただし9人という非常に小規模な研究です。そして何より、これは「顔のリフトアップ」を調べた研究ではありません。ここは混同してはいけません。
リラックス効果については?
こちらも研究があります。
頭皮マッサージ後に、唾液中コルチゾール、心理的なリラックス感、疲労感などの変化を調べた研究があります。いくつかの小規模研究では、ストレス指標の低下やリラックス感の向上が報告されています。
つまり、頭皮マッサージは意味がない、ではありません。
気持ちいい。リラックスできる。頭がスッキリする。そういう目的なら十分ありです。
ただ、リラックスする↓顔が永久に引き上がる、ではありません。目的を分けて考える必要があります。
「頭皮が硬い」って何?
美容院などで、「頭皮、かなり硬いですね」と言われた経験がある人もいるでしょう。
そもそも「頭皮の硬さ」は、一般的な医療現場で顔のたるみを診断する標準指標ではありません。皮膚や皮下組織の可動性には個人差があります。
頭蓋骨の上には、
- 皮膚
- 結合組織
- 腱膜
- 疎性結合組織
- 骨膜
などがあります。部位によって動きやすさも違います。
だから、「頭皮が硬い=血流が悪い=顔がたるむ」という一直線の説明は、かなり単純化されています。
強く揉めば柔らかくなる?
ここは最初の「顔マッサージ」の記事にもつながります。
マッサージは、強ければ強いほど効くわけではありません。頭皮にも、皮膚、血管、神経、毛包などがあります。
爪を立てる。痛いほど押す。皮膚を強く引っ張る。こうした刺激を、「痛い=効いている」と考える必要はありません。むしろ炎症や皮膚トラブルがある場合には、強い刺激を避けた方がよいこともあります。
マッサージをするなら、気持ちいい範囲で十分です。
顔を本当に支えているものを考える
ここまでの美容シリーズを読んでいると、少し共通点が見えてきます。
私たちは顔を、表面だけで考えがちです。でも顔は立体構造です。
皮膚。脂肪。筋肉。SMAS。支持靱帯。骨。それぞれが関係しています。
顔面支持靱帯は、実際のフェイスリフト手術でも非常に重要な解剖学的構造として扱われています。
外科的なフェイスリフトが皮膚表面をただ揉むのではなく、SMAS、支持靱帯、深部組織などを考えて行われるのも、顔のたるみが単なる「皮膚の問題」ではないからです。
もちろん、だから美容医療を受けましょうという話ではありません。むしろ、顔の構造はそれくらい複雑ということです。
では、たるみ予防として何をすればいい?
ここで現実的な話に戻りましょう。
まず、紫外線対策。何度も登場しますね。でも光老化は皮膚のコラーゲンなどに影響するため、長期的な皮膚老化を考えるなら重要です。
次に、
- 喫煙を避ける
- 適切な睡眠
- 十分な栄養
- 適切なスキンケア
- 体重の大きな増減を繰り返さない
こうした地味な要素を整えること。
たるみを完全に止めることはできません。なぜなら、皮膚だけでなく、脂肪、靱帯、筋肉、骨まで年齢とともに変化するからです。老化そのものをゼロにする方法はありません。
頭皮マッサージはやめた方がいい?
いいえ。
気持ちいいなら、やっていいと思います。
お風呂で優しく頭皮を動かす。美容院でヘッドスパを受ける。疲れた日に軽く揉む。
それで、「気持ちいい」「リラックスできる」「スッキリする」なら、それだけで十分な価値があります。
美容は、医学的効果があるものしか楽しんではいけないわけではありません。
ただし、「これを毎日やらないと顔が垂れる」「頭皮を剥がすくらい揉まないと老ける」と不安になる必要もありません。
「気持ちいい」と「若返る」を分ける
これ、美容情報を見るときに結構大切です。
マッサージすると気持ちいい。
↓
本当。
顔がスッキリして見える。
↓
一時的にそう感じる可能性はある。
頭皮と顔は解剖学的につながっている。
↓
本当。
だから頭皮を揉めば顔の支持組織が若返り、たるみが長期的に改善する。
↓
そこまでの根拠はありません。
途中までは正しい。でも最後に大きくジャンプしている。美容情報には、このパターンがとても多いのです。
美容の「それっぽい説明」に気をつける
「頭皮と顔は一枚でつながっています」
これは解剖学的な事実を一部含んでいます。だから、その後の説明まで正しく聞こえてしまいます。
でも、AとBがつながっていることと、Aを揉めばBが若返ることは別問題です。
これは美容だけではありません。健康情報を見るときにも使える考え方です。
「前半の説明が正しいから、結論も正しい」とは限らない。その間に、本当に研究で確認された橋が架かっているのか。そこを見る。
頭皮は、顔を引き上げるハンドルではない
頭皮マッサージを否定する必要はありません。気持ちよければ、ぜひ楽しんでください。
ただ、顔を引き上げるために、毎日痛い思いをして頭皮をゴリゴリ揉む必要はありません。
顔は、頭皮からぶら下がった一枚の布ではありません。いくつもの層。脂肪。筋肉。筋膜。支持靱帯。そして骨。それらが組み合わさった、非常に精巧な立体構造です。
だから美容も、「ここを揉めば全部上がる」ほど単純ではありません。
頭皮マッサージは、顔を持ち上げるためではなく、「気持ちいいからする」。それくらいの距離感が、身体にも心にも、ちょうどいいのかもしれません。
美容の”常識のウソ”を科学で検証したまとめはこちら → 美容の常識を科学で検証【まとめ】
主な参考文献
- Alghoul M, Codner MA. Retaining ligaments of the face: review of anatomy and clinical applications. Aesthet Surg J. 2013;33:769–782.
顔面支持靱帯の解剖学的位置や、SMAS・脂肪コンパートメントとの関係についてまとめたレビューです。(PubMed) - Whitney ZB, Jain M, Zito PM. Anatomy, Skin, Superficial Musculoaponeurotic System (SMAS) Fascia. StatPearls.
SMASと顔面各層、表情筋、側頭部や広頸筋との連続性などについてまとめられています。(NCBI Bookshelf) - Koyama T, et al. Standardized Scalp Massage Results in Increased Hair Thickness by Inducing Stretching Forces to Dermal Papilla Cells in the Subcutaneous Tissue. Eplasty. 2016;16:e8.
9人の男性が1日4分、24週間の頭皮マッサージを行った小規模研究。毛髪径の増加を報告していますが、顔のリフトアップを検証した研究ではありません。(PMC) - Shimada K, et al. Effects of Scalp Massage on Physiological and Psychological Indices. J Soc Cosmet Chem Jpn. 2013;47:202–208.
頭皮マッサージと心理的なリラックス感、唾液中ストレス指標などについて検討した研究です。(J-STAGE) - Kim IH, Kim TY, Ko YW. The effect of a scalp massage on stress hormone, blood pressure, and heart rate of healthy female. J Phys Ther Sci. 2016;28:2703–2707.
健康な女性を対象に、頭皮マッサージとストレスホルモン、血圧、心拍数などの変化を調べた研究です。(PMC)
✍️ この記事はTOM さんの寄稿をもとに構成しました。(サイト → enishi-note.site)


