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顔の筋トレで若返る? 表情筋トレーニングの真実を科学的に検証する
「顔も筋肉なんだから、鍛えればリフトアップする」
そう聞くと、なんとなく正しそうに思えます。
スクワットをすれば脚の筋肉が鍛えられる。腕立て伏せをすれば胸や腕の筋肉が鍛えられる。ならば表情筋も鍛えれば、頬が上がる、ほうれい線が薄くなる、フェイスラインが引き締まる。そんな気がします。
実際、「顔ヨガ」「表情筋トレーニング」「顔筋トレ」と呼ばれる美容法はたくさんあります。では、本当に顔を鍛えると若返るのでしょうか。
結論から言うと、
「一部の顔トレには、頬のボリュームなどを変化させる可能性があります。ただし、“顔を鍛えれば若返る”と断言できるほどの科学的根拠はまだありません」
というのが、現在の研究から見た一番近い答えです。
そもそも表情筋は「筋肉」
まず大前提として、表情筋も筋肉です。刺激に応じて適応する可能性があります。実際、顔の筋肉を運動させた研究では、超音波で測定した一部の顔面筋の断面積が増加したという報告があります。
つまり、「顔の筋肉だけは絶対に鍛えられない」というわけではありません。ここまでは身体の筋肉と似ています。しかし、ここからが顔の面白いところです。
腕の筋肉と顔の筋肉は、同じようには考えられない
例えば、上腕二頭筋。いわゆる「力こぶ」の筋肉です。筋肉の両端は腱などを介して骨につながり、収縮することで関節を動かします。
ところが表情筋の多くは少し特殊です。骨や筋膜などから始まり、皮膚や別の筋肉などへつながっています。だから笑うと口角が上がり、驚くと眉が上がり、目を細めると目尻に線ができます。
つまり表情筋は、「骨を動かすための筋肉」というより、「顔の軟部組織や皮膚を動かして表情を作る筋肉」という性格が強いのです。
そのため、
- 脚を鍛える → 筋肉が太くなる → 脚の機能が向上する
という考え方を、
- 顔を鍛える → 筋肉が太くなる → 顔が若返る
と、そのまま置き換えることはできません。
実は「顔トレで若返った」という研究がある
ここで面白い研究があります。2018年、JAMA Dermatologyに顔のエクササイズを調べた研究が発表されました。
40~65歳の女性が、32種類の顔のエクササイズを行いました。最初の8週間は毎日30分。その後は20週まで、1日おき程度に続けました。かなり本格的です。
最終的に20週間を完了したのは16人でした。写真を使って評価したところ、上頬部のふくらみ、下頬部のふくらみに改善がみられました。
さらに興味深いことに、評価者が写真から推定した平均年齢は、
- 開始前 50.8歳
- 20週間後 48.1歳
となりました。約2.7歳若く見積もられたのです。
「やっぱり顔トレは効くじゃないか!」と思いたくなります。でも、ここで止まらないのが縁ノートです。
この研究には、大きな弱点がある
この研究には対照群がありませんでした。つまり、顔トレをした人と、顔トレをしなかった人を比較した研究ではありません。
さらに27人が参加したものの、最後まで完了したのは16人。全員が中年女性でした。そして、顔トレに興味を持って自ら参加した人たちです。
そのため、この結果だけから、「誰でも顔トレを20週間やれば2.7歳若返る」とは言えません。研究者自身も、小規模で対照群がないことなどを限界として挙げています。
それでも面白いのは、「顔の筋肉への運動刺激によって、少なくとも頬のボリュームが変化する可能性」が示されたことです。
別の研究では筋肉そのものが変わった
顔面筋を鍛える器具を使った研究もあります。50人の女性が8週間、1日2回、顔の運動を行いました。すると超音波検査で、大頬骨筋、顎二腹筋など、一部の筋肉の断面積が増加しました。顔の表面形状にも変化が確認されています。
つまり、「顔トレで筋肉そのものが変化する可能性」は確かにあります。これはかなり興味深い結果です。
では、毎日変顔すればいい?
残念ながら、そこまでは言えません。顔の老化は筋肉だけで起こるわけではないからです。
前回の「ほうれい線」の記事でも紹介したように、皮膚、皮下脂肪、深部脂肪、筋肉、支持組織、骨格など、さまざまな組織が加齢によって変化します。
筋肉だけを鍛えても、紫外線によって変化した皮膚が元通りになるわけではありません。骨格の加齢変化が戻るわけでもありません。減少した脂肪が必ず戻るわけでもありません。顔という立体構造の中の「一つの部品」に働きかけているだけなのです。
顔トレで「シワ」は消える?
ここは特に注意が必要です。先ほどの20週間の研究でも、頬のふくらみには改善がみられました。しかし、額のシワ、眉間のシワ、目尻のシワ、ほうれい線など、多くの項目では統計学的に明確な改善は確認されませんでした。
つまり、「顔トレで頬のボリュームが変わる可能性」と、「顔トレでシワが消える」は別の話なのです。
むしろ表情ジワは、表情筋が皮膚を繰り返し動かすことで現れるものでもあります。笑ったときの目尻。眉を寄せたときの眉間。額を上げたときのおでこ。
顔の筋肉は、シワを「持ち上げて消す筋肉」ではありません。皮膚を動かして表情を作る筋肉でもあるのです。だから、「とにかくたくさん動かせば若返る」という考え方は少し単純すぎます。
過去の研究をまとめてみると?
2014年には、顔のエクササイズによる若返り効果を調べた系統的レビューが発表されています。9件の研究が見つかりました。興味深いことに、それぞれの研究では何らかの良い結果が報告されていました。
しかし、
- 研究人数が少ない
- 対照群がない
- ランダム化されていない
- 評価が主観的
など、研究方法に大きな問題がありました。そのため研究者は、「顔のエクササイズが顔の若返りに有効か判断するには、証拠が不十分」と結論づけています。
そして2025年、もう一度研究がまとめられた
それから約10年。研究は増えました。2025年には、顔のエクササイズ、筋機能療法、マッサージなどを対象にした新しい系統的レビューが発表されています。
対象となったのは12研究、合計321人。頬、顎周辺、目の周囲など、一部の場所では改善が報告されました。
しかし、
- 研究人数が少ない
- 方法がバラバラ
- 評価方法も統一されていない
- 対象者が女性に偏っている
などの問題が残っていました。そして結論は、「一部に改善はみられるものの、効果を確信できるだけの証拠はまだ不足している」というものでした。
10年以上研究されても、「効く!」とはまだ言い切れない。これが現在地です。
では、顔トレはやらない方がいい?
そこまで否定する必要もありません。例えば、口を動かす、笑顔を作る、頬を動かす、口唇や舌を適切に使うといった運動には、美容とは別に口腔機能や表情、発話などの役割があります。
また、顔トレによって頬の筋肉やボリュームが変化する可能性もあります。ですから、「顔トレは全部インチキ」とするのも科学的ではありません。
現時点では、「一部の効果は期待できそうだが、万能な若返り法ではない」くらいに考えるのがちょうどよさそうです。
美容目的なら「鍛える場所」を考える
身体の筋トレでも、「筋肉なら全部鍛えればいい」とは考えません。目的によって鍛える筋肉を選びます。
顔も同じです。頬のボリュームを目的とする運動と、額に何度もシワを寄せる運動を、同じ「表情筋トレ」と呼んでしまうのは少し乱暴です。
そして現時点では、「この筋肉を、この強度で、この回数鍛えるのが美容に最適」という処方は確立されていません。
SNSで紹介されている顔トレを見たときは、「表情筋に効いている!」だけでなく、「その筋肉を鍛えることで、何を変えたいの?」と考えてみるといいかもしれません。
結局、何をすればいい?
もし目的が、「なるべく若々しい顔を保ちたい」なら、顔トレ一本に賭ける必要はありません。優先順位をつけましょう。
- まず、紫外線対策
- 適切なスキンケア
- 喫煙を避ける
- 十分な睡眠
- バランスの取れた食生活
そして、その上で、顔トレを楽しんで行う。これくらいが現実的です。
顔トレだけで10歳若返る、と期待する必要はありません。でも、「全部無意味だからやめろ」という必要もありません。
筋肉は、鍛えればいいとは限らない
身体を考えるとき、「筋肉=鍛えるもの」と考えがちです。でも理学療法では、筋力が足りないのか、柔軟性が足りないのか、動かし方に問題があるのか、過剰に緊張しているのか、目的によって考え方を変えます。
顔も同じです。「表情筋だから、とりあえず鍛える」ではなく、何を変えたいのか、そのために本当に筋肉を鍛える必要があるのか、そこから考えた方がいいでしょう。
顔はダンベルではありません。たくさん鍛えれば鍛えるほど若返る、という単純な世界ではないのです。ただし、顔トレによって一部の筋肉や頬のボリュームが変化する可能性はあります。
だから現在の答えは、「効く」でも、「効かない」でもなく、「可能性はある。でも、まだ分からないことが多い」。
美容情報としては少し地味な答えです。でも、それが今の科学に一番近い答えです。
美容の”常識のウソ”を科学で検証したまとめはこちら → 美容の常識を科学で検証【まとめ】
主な参考文献
- Alam M, et al. Association of Facial Exercise With the Appearance of Aging. JAMA Dermatol. 2018;154:365–367.
20週間の顔面エクササイズによって頬のふくらみなどに改善が認められた小規模研究。ただし対照群なし、完遂者16人などの限界があります。(JAMA Network) - Van Borsel J, et al. The effectiveness of facial exercises for facial rejuvenation: a systematic review. Aesthet Surg J. 2014;34:22–27.
顔面エクササイズ研究をまとめた系統的レビュー。研究の質などから、有効性を判断するにはエビデンスが不十分と結論づけています。(PubMed) - Van Borsel J, et al. Facial exercises for facial rejuvenation: a control group study. Folia Phoniatr Logop. 2014.
7週間の顔面運動を対照群と比較した小規模研究で、全体として美容効果を結論づけることはできませんでした。(PubMed) - Kim K, et al. Effect of a Facial Muscle Exercise Device on Facial Rejuvenation. Aesthet Surg J. 2018.
8週間の顔面筋運動後、一部の顔面筋の断面積や顔面形状に変化が確認されました。(PubMed) - Efficacy of Conservative Techniques for Mechanical Facial Rejuvenation: A Systematic Review. Aesthet Surg J Open Forum. 2025.
12研究、321人をまとめた比較的新しい系統的レビュー。一部の局所的改善が報告される一方、研究の異質性や小規模性などから、現時点では有効性を確立するには不十分としています。(PubMed)
✍️ この記事はTOM さんの寄稿をもとに構成しました。(サイト → enishi-note.site)


