📂 健康・からだ
草しか食べないのに、なぜ草食動物はムキムキなのか?
ゴリラの太い腕。
牛の大きな体。
馬の引き締まった脚。
彼らの体を見ると、ふと不思議に思いませんか?
「肉を食べていないのに、その筋肉は何からできているの?」
私たち人間は筋肉をつけようとすると、
- 「タンパク質を摂ろう」
- 「肉や魚、卵を食べよう」
- 「プロテインを飲もう」
と考えます。
ところが自然界には、植物を中心に食べながら、とんでもなく大きな体を維持している動物がいます。
彼らの筋肉は、いったいどこから来るのでしょうか。
実はこの疑問には、「植物の栄養」と「腸内細菌」、そして「進化」が深く関係しています。
そもそも「草=タンパク質ゼロ」ではない
まず、大きな誤解を一つ解いておきましょう。
草や葉にもタンパク質は含まれています。
私たちはタンパク質と聞くと肉、魚、卵などを思い浮かべますが、タンパク質は動物だけが持っているものではありません。植物にもタンパク質があります。
実際、ウガンダのブウィンディ国立公園でゴリラが食べていた84種の植物を調べた研究では、植物の部位によって乾燥重量あたり約2~28%の粗タンパク質が含まれていました。
つまりゴリラは、
「タンパク質を食べていない」
のではありません。植物からちゃんと摂っています。
さらにゴリラは何でも適当に食べているわけでもありません。研究では、タンパク質を比較的多く含む葉を選んで食べることも報告されています。(PubMed)
ゴリラは意外なほど「高タンパク」な食生活をすることがある
さらに面白い研究があります。
野生のマウンテンゴリラの食事を調べた研究では、葉を中心に食べている時期には、必要なエネルギーを確保するために大量の植物を食べる結果、タンパク質の摂取量までかなり多くなることが分かりました。
研究者たちは、ゴリラが葉を多く食べる時期のタンパク質摂取量について、人間でいえば高タンパク食に近いレベルになることがあると報告しています。(PubMed)
「草食=低タンパク」
というイメージそのものが、少し違うわけです。
そして牛には「体内の発酵工場」がある
ここからがさらに面白いところです。
牛や羊などの、胃の中で植物を発酵させるタイプの動物には、「ルーメン」と呼ばれる巨大な発酵槽のような場所があります。そこには膨大な数の微生物が暮らしています。
牛自身は、植物の細胞壁を構成するセルロースをそのまま効率よく利用することができません。そこで微生物の出番です。
- 牛が草を食べる。
- ↓
- ルーメンの微生物が植物を発酵させる。
- ↓
- 発酵によって生じた物質を牛がエネルギーとして利用する。
これだけでもすごいのですが、さらに重要なのが「微生物そのもの」です。
ルーメンの中では、微生物が増殖しています。そしてその微生物たちは、やがて胃の先へ流れていき、牛によって消化されます。
つまり牛は、
「草を食べる → 微生物を育てる → その微生物由来のタンパク質も利用する」
という驚くべきシステムを持っているのです。(FAOHome)
研究では、牛で消化されるタンパク質の50%以上を微生物由来の粗タンパク質が占めることも示されています。(FAO AGRIS)
牛のお腹には「自分専用の栄養工場」がある
こう考えると分かりやすいかもしれません。
私たちは、
- 食べ物
- ↓
- 消化
- ↓
- 栄養を吸収
というイメージを持っています。
牛ではその途中に、
- 食べ物
- ↓
- 微生物に渡す
- ↓
- 微生物が発酵・増殖する
- ↓
- そこで作られた栄養や微生物そのものを利用する
という巨大な工程があります。
だから同じ「草を食べる」という行為でも、人間が草を食べるのとは全く違うのです。
草食動物たちは、長い進化の中で植物から栄養を取り出すための特殊な消化システムを獲得してきました。
じゃあ馬は?
ここで一つ疑問が出ます。
「馬は牛みたいにお腹の中で草を発酵させるの?」
その通りです。ただしやり方が少し違います。
牛は胃の前のほうで発酵させるタイプですが、馬はお腹の後ろ側(大きな腸)で植物を発酵させます。
つまり、
- 牛「先に発酵させてから消化する」
- 馬「ある程度消化してから、後ろで発酵させる」
という違いがあります。
どちらも腸内微生物の力を借りて、植物の繊維からエネルギーを取り出しています。(Merck Veterinary Manual)
ではゴリラは?
ゴリラも牛のようにお腹で発酵させる動物ではありません。
しかしゴリラも大きな消化管を持ち、植物の繊維を腸内細菌によって発酵させます。この発酵によって「短鎖脂肪酸」という物質が作られ、エネルギー源として利用されます。
西ローランドゴリラの食事を分析した研究では、食物繊維の発酵によって生じる短鎖脂肪酸が、利用可能なエネルギーの大きな割合を占める可能性が示されています。(PubMed)
ゴリラもまた、
「大量の植物を食べ、それを腸内細菌の力まで使って利用する」
ことに非常に適した動物なのです。
じゃあ草を食べれば、人間もゴリラみたいになれる?
残念ながら、
「明日からサラダだけ食べればゴリラになれる」
という話ではありません。
人間とゴリラ、牛、馬では消化管の構造も、腸内細菌も、食べる量も、代謝も違います。
そして何より大切なのが、
「筋肉量は食べ物だけで決まらない」
ということです。
筋肉の量は、
- 遺伝的な体格
- ホルモン環境
- 筋肉や骨格の構造
- 日常の活動量
- 成長速度
- エネルギー摂取量
- タンパク質・アミノ酸の供給
など、さまざまな要因によって決まります。
ゴリラが強いのは、
「植物を食べているから」
ではありません。ゴリラという動物が、その食生活で生きられる体へ長い時間をかけて進化してきたからです。
ここで一番大事なこと
そもそも筋肉は、
「食べた肉が、そのまま腕に貼り付く」
わけではありません。
- 肉でも、
- 魚でも、
- 卵でも、
- 大豆でも、
- 植物でも、
含まれているタンパク質は消化され、アミノ酸などへ分解されます。そして体は、それらを材料として自分自身のタンパク質を作ります。
だから筋肉にとって重要なのは、
「肉を食べたかどうか」
ではなく、
「必要なエネルギーとアミノ酸を確保できたか」
なのです。
草から、あの巨大な体ができる
草原にいる牛を見て、
「草しか食べていない」
と思うかもしれません。
でも、その体の中を覗いてみると、
- 植物が入り、
- 微生物が働き、
- 発酵が起こり、
- 別の栄養へ変換され、
- それが吸収され、
- 最終的に筋肉や臓器、血液などへ作り変えられています。
ゴリラも馬も、それぞれ違う方法で植物を利用しています。
一見するとただの「草」。
でも動物の体内では、とんでもなく複雑な生命活動が起きているのです。
そう考えると、
草を食べている牛を見る目が、少し変わってきませんか?
参考文献・出典
- Rothman JM, et al. Nutritional chemistry of foods eaten by gorillas in Bwindi Impenetrable National Park, Uganda. American Journal of Primatology. 2006. (PubMed)
- Rothman JM, et al. Nutritional geometry: gorillas prioritize non-protein energy while consuming surplus protein. Biology Letters. 2011. (PubMed)
- Popovich DG, et al. The western lowland gorilla diet has implications for the health of humans and other hominoids. Journal of Nutrition. 1997. (PubMed)
- Sok M, et al. Amino acid composition of rumen bacteria and protozoa in cattle. Journal of Dairy Science. 2017. (FAO AGRIS)
- Newbold CJ, Ramos-Morales E. Ruminal microbiome and microbial metabolome: effects of diet and ruminant host. Animal. 2020. (FAO AGRIS)
- Merck Veterinary Manual. Nutrition in Ungulates and Subungulates. (Merck Veterinary Manual)
✍️ この記事はTOM さんの寄稿をもとに構成しました。(サイト → enishi-note.site)
画像: “Handsome gorilla” by Tambako the Jaguar is licensed under CC BY-ND 2.0. To view a copy of this license, visit https://creativecommons.org/licenses/by-nd/2.0/.(Openverse)


