📂 健康・からだ
たった数秒で効くものは、たった数秒で戻る
たった十秒で。これを飲むだけで。聞いたことのない横文字の、最新の技術で。テレビでも広告でも、そういう言葉を一日に何度も見かけます。
うさんくさいと感じる人は多いはずです。ただ、なぜうさんくさいのかを言葉にできる人は、あまり多くない。理学療法士として毎日いろんな人の体が変わっていくのを見ていると、そこにはかなりはっきりした規則があると感じます。効果は、かけた時間の分しか残らない。これだけです。
二十秒のストレッチでも、体はちゃんと変わる
先に断っておくと、短時間で効くものが全部インチキだという話ではありません。
理学療法の専門誌に載った総説に、二十秒の静的ストレッチが関節可動域に与える影響を詳しく調べた研究が紹介されています。結果は、ストレッチの直後だけでなく、十分後まで可動域が増えたままだったというもの。二十秒でも、体はちゃんと変わります。
ただし、その効果には期限がついています。数十秒で得たものは、数十分の単位で薄れていく。効いたこと自体は本当なのに、それを「柔らかい体が手に入る」と言い換えた瞬間に、話がすり替わります。
五週間かけたものは、五週間かけて消える
では、時間をかけた場合はどうなるか。
新潟医療福祉大学の研究チームが、週に六十分のストレッチを五週間続けたあと、やめてからどうなるかを追いかけています。増えた柔軟性は、五週間後にはストレッチを始める前の状態に戻っていました。
得るのに五週間かかったものが、失うのにも五週間かかる。この対称性が、この話の芯です。短く得たものは短く消え、時間をかけて積んだものは、その分だけ長くもつ。体は、かけた時間に見合った分しか返してくれません。
ストレッチを例にしていますが、体に起きる変化の多くはこの形をとります。筋力も、持久力も、体重も。急に手に入ったものは、たいてい急に出ていきます。
まとめてやっても、追いつけない
同じ総説に、もっと身も蓋もない研究が出てきます。
一週間のストレッチ時間を三百六十秒に固定したうえで、週一回にまとめて行う群と、週三回に分けて行う群を比べたものです。結果は、週三回では可動域が有意に増え、週一回では増えなかった。合計時間はまったく同じなのに、です。
体が見ているのは、一度に何をされたかではなく、どれくらいの頻度で繰り返されたか。だから、まとめ買いのような発想が通じません。溜めておいて一気に、が効かない領域があるということです。裏を返せば、一回が短くても回数を重ねたほうが届く、ということでもあります。
広告には、ひとつだけ聞けばいい
ここまで分かると、広告の前で使える問いがひとつに絞れます。
それは、どれくらい続くんですか、です。
効果があるかないかを、専門家でない人が判定するのは難しい。けれど、どれくらい持つのかが書いてあるかどうかは、誰でも見れば分かります。そして多くの広告に、それは書かれていません。
書けない事情もあります。景品表示法には不実証広告規制という仕組みがあって、消費者庁は効果の表示についてその裏づけとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができ、期間内に出せなければ、その表示は措置命令との関係で不当表示とみなされます。合理的な根拠と認められるには、資料が客観的に実証された内容であることに加えて、表示された効果と資料で実証された内容が適切に対応していることが必要だとされています。
成分についての研究はあるけれど、その商品を使った人がどうなったかは調べていない。よくある形です。持続時間を書いていない広告は、書けないから書いていない可能性がある。そう思って眺めると、景色がだいぶ変わります。
時間をかけたものだけが、残る
たった数秒で効きます、と書いてある商品は、実のところ自分で答えを言っています。数秒で変わるものは、数秒で戻る。
がっかりする話に聞こえるかもしれませんが、逆から読むと悪い話ではありません。毎日少しずつ積んだものは、やめてもすぐには消えないということでもあります。積み上げるのに時間がかかるものは、崩れるのにも時間がかかる。近道がないかわりに、遠回りしたぶんはちゃんと残ります。
今日の二十秒に、十分ぶんの意味しかなかったとしても、それを三か月続けた人の体は、もう別の話になっています。
体のことで気になる症状がある場合は、広告ではなく医療機関にご相談ください。
参考・出典
- ストレッチングアップデート―ストレッチングで"予防できるもの"と"予防出来ないもの"―|理学療法の歩み 33(1), 2022
- 長時間のストレッチングにより増加した柔軟性は持続しないことを明らかにしました|新潟医療福祉大学
- 不実証広告規制|消費者庁
この記事は、公開されている研究・公的情報をもとに、縁ノート編集部(理学療法士 監修)が作成しています。効果を保証するものではなく、体調の感じ方には個人差があります。気になる症状がある場合は、自己判断せず医療機関にご相談ください。
画像: “Stretching Exercises” by wonker is licensed under CC BY 2.0. To view a copy of this license, visit https://creativecommons.org/licenses/by/2.0/.(Openverse)


